Lens,align.: Art Music
□ Jóhann Jóhannsson / "FORDLANDIA"
♪ Fordlandia
♪ Chimaerica
Release Date; 03/11/2008
Label; 4AD
Cat.No.; CAD 2812 CD
Format: 1xCD
>> http://www.johannjohannsson.com/
>> http://www.myspace.com/johannjohannsson
>> tracklisting.
01. Fordlândia
02. Melodia (I)
03. The Rocket Builder (Io Pan!)
04. Melodia (II)
05. Fordlândia Aerial View
06. Melodia (III)
07. Chimaerica
08. Melodia (IV)
09. Great God Pan Is Dead
10. Melodia (Guidelines For A Propulsion Device Based On Heim's Quantum Theory)
11. How We Left Fordlandia
written, arranged and produced by Jóhann Jóhannsson
Clarinets (2,4,8) by Guðni Franzson. Percussion and electronics (3,5,10,11) by Matthias M.D. Hemstock. Piano, pipe organ, electric organ, guitar and electronics by Jóhann Jóhannsson. Pipe organ (7) by Guðmundur Sigurðsson. Strings (3,5) by Una Sveinbjarnardóttir, Greta Guðmundsdóttir, Guðmundur Kristmundsson and Hrafnkell Orri Egilsson. Orchestra and choir (1,9,10,11): The City of Prague Philharmonic Orchestra and Chorus, conducted by Miriam Nemcova. Concert Master: Bohumil Kotmel. Orchestra Conductor: James Fitzpatrick. Orchestration by Jóhann Jóhannsson except (10 and 11) by Jóhann Jóhannsson and Arnar Bjarnarson.
Orchestra recorded at Barrandov Studios, Smecky Soundstage, Prague by Jan Holzner. String quartet recorded in Langholtskirkja, Reykjavik by Finnur Há konarsson. pipe organ recorded in Langholtskirkja, Reykjavik by Finnur Há konarsson and Bragernes church in Drammen, Norway by Thomas Wolden. Additional recordings in Copenhagen, Reykjavik and Tokyo. Storm recordings (9) by BJ Nilsen. Mixed in Sýrland, Reykjavik by Finnur Hákonarsson and in NTOV, Copenhagen by Jóhann Jóhannsson. Mastered at Abbey Road by Steve Rooke.
Artwork concept: Jóhann Jóhannsson. Art Direction and Design: Vaughan Oliver at v23. Assistance: Chris Bigg and Stuart Munro. Rocket image manipulation: Marc Adams / panoptika.net. Video for (10): Magnus Helgason. Published by mute song.
AND THAT DISMAL CRY ROSE SLOWLY AND SANK SLOWLY THROUGH THE AIR FULL OF SPIRITS MELANCHOLY AND ETERNITYS DESPAIR! AND THEY HEARD THE WORDS IT SAID PAN IS DEAD - GREAT PAN IS DEAD.
- Elizabeth Barrett Browning (1806-1861)
"Failure is the opportunity to begin again, more intelligently. "
- Henry Ford (founder of the Ford Motor Company)
"For a revolutionary space transportation system, however, the physical concepts of matter and inertia as well as the nature of space and time have to be understood"
-Walter Dröscher, Jochem Häuser "Guidelines For A Propulsion Device Based On Heim's Quantum Theory"
妙なる天上の鳴動が この胸に衝問する。
我々は何故ここに産まれ 何処へ向かうのか。
遥かな時が、苔と木々の抱擁に遺物を覆うとも
あの発条は未だ響き渡るのだ。
在りし日々の光跡を遺して...
アイスランドにおいて、美術・映像メディアといった多方面に渡るアート領域の最前線を牽引する現代音楽家、ヨハン・ヨハンソン(Kitchen Motors創始者)の最新ソロ名義アルバム。
ミリアム・ネムコヴァ指揮、プラハ市フィルハーモニー管弦楽団及び合唱団によるオーケストラ演奏。プログラミング、ギターやパーカッション、エレクトロニク・アレンジといった他パートのオーヴァーダブは、欧州や日本を含む世界各地で別々に行われた。
前アルバム、"IBM 1401, a user's manual"に続く『アメリカ技術史三部作』の2作目に当たるというこの"Fordlandia"は、フォード・モーター社の歴史的暗部とも言われる、アマゾン奥地に築かれた理想郷"フォードランディア"の末路と、現代のロケット工学の発展に深く関わった科学者でありながら、異教の秘術の信奉者でもあったJack Personsを取り上げた、まったく交わりの無い2つの物語を大きな機軸とした実験的な『巨作』である。
とはいえ、ヨハンソンは今作のテーマを明確に定義しているわけではない。『より散漫で、自由な解釈を齎す』と自身が語る"Fordlandia"の世界観の全貌は確かに、深く認識すればするほど、楽曲の神秘性と真摯なメッセージ性をスポイルしかねない、三文オカルト的な要素に躓いてしまう。
"Fordlandia"におけるテーマ性の構築手法は、Alejandro JodorowskyやWerner Herzog、Kenneth Angerらの実験フィルムの方法論を意識したものだと言う。とりわけ、Jack Parsonsと同じオカルト信仰である、O.T.O.系のThelema教に傾倒していたアンガーの呪術的なモンタージュに影響を受けているとのこと。また、同時にフランスのシュルレアリスム詩人、Andre Bretonの名も挙げられている。
テーマの機軸は大きく分けて2つだが、それ以外にも文学・史学・科学の分野から、関連性のあるギミック、あるいはマクガフィンとも喩えられそうな引用が為される。共通のテーマに牧神パン信仰があると思えば、ある点においては関係性が隔絶している。しかしロケット工学に視点をシフトすれば関係性が断続的にリンクする。
楽曲の一つ一つを貫くテーマは存在しないが、それぞれを包括するアウトラインは描けそうだ。それには先ず、一曲一曲について解題を施すのが最良の経路かもしれない。さながら現代音楽版"Intolerance"といった様相だが、以下、ヨハンソンの要約を交えながら、この途方もない作品を紐解いていきたい。
1. Fordlândia .
私の子猫は、くしゃみやひきつけている
アルバムの主題曲。
ストリングスによる壮大なオスティナートが胸を打つ。遠来するパイプ・オルガンとアトモスフィアからのフェードイン。哀感を帯びたギターループが荒漠とした印象を齎し、重厚な反響音が機械的に周期を広げながら鳴動を続ける。それは終盤5分にも及ぶリタルダントの過程で、機械装置の斜歯を制動するかの如く、より重々しい巨億の響きを咆号し、心の扉を揺さぶり叩く。
ヨハンソンが近年行ってきたライブ・エレクトロニクスの集大成。ギターシークエンスはノルウェーのドラメンにある教会で録音されたもの。
1920年、文明の興隆期にあったアメリカ。
ヘンリー・フォードは自動車のタイヤ・ゴムの採取の為に、ブラジルの熱帯雨林に巨大なプランテーションを築く。『フォードランディア』と名付けられたその土地には、白い柵に囲われた家々が立ち並び、ハンバーガーや禁酒法といった時代性がそのまま反映された"アメリカの理想郷"に成り代わろうとしていた。
(左:泥濘に嵌る自動車 ca.1940 右:現地労働者たち)
1930年代に入って、ますます豊穣の時代を謳歌していくフォードランディアの白人労働者たちは、それぞれにIDバッジを身につけ、怠惰な生活に耽った。そして過酷な待遇を強いられていた現地労働者の反乱を引き起こすが、この暴動はブラジル軍の介入によって沈静化を視る。
(熱帯雨林の中心に位置するフォードランディアのアメリカ住宅)
しかし、合成技術の発展から天然ゴムの需要が低下し続けた1945年、ヘンリーは遂にFordlandiaの売却を決める。この時の損失は2000万ドルに及び「ユートピアの破綻」の象徴となった。現在、フォードランディアはジャングルの奥深くに埋もれ風化の一途を辿っているという。
2. Melodia (I) .
古き良きアメリカの時代性を代弁するような、クラリネットの明朗な旋律と、ペーソスに満ちた弦のトレモロが印象的なインタールード。
『何年か前、奏者のGuðni Franzsonに、幾つかの主題の変奏曲を依頼したんだが、トラックとして仕上げるには至らなかった。ここ2-3年、同様のメロディをライブで使うようになり、10曲目においてオーケストラ用に編曲する際、Guðniのヴァリエーションを思い出したんだ。アルバムの主題を導くモチーフとして、この旋律を散りばめることにした。』
3. The Rocket Builder (Io Pan!) .
インダストリアル調のプログラミング・ビートに、不安感を煽るストリングスの旋律が反復する。Craig Armstrongの"Rise"を彷彿とさせるホーンティングな一曲。中盤における楽曲の断絶部からは、魔教的なチェレスタの循環メロディに加えて、シンセの濁ったエコーが、暗澹かつシュールなアトモスフィアを醸し出している。
演奏はアイスランド弦楽四重奏団、Matthias Hemstockのパーカッション、他楽器をヨハンソン自身が演奏している。
本作のもう一人の主人公が、独学・異端のロケット工学者であり、今にちの基礎を支える燃料推進装置を開発したJohn Whiteside ParsonsことJack Parsonsだ。
1930年代、カリフォルニア工科大学(California Institute of Technology)において、グッゲンハイム航空研究所長であったTheodore von Kármánに師事するFrank Joseph Malinaらのチームは、当時は無謀とも思えた実用的な宇宙航法としてのジェット推進を目指した実験の結果、ある偶然(発火部位のミス)から、これまでの燃焼効率を刷新するロケット・モーターを製造。
彼らが創設したJPL(ジェット推進研究所 )及びエアロ・ジェット社(現・GenCorp)は、その後もアメリカないし世界におけるジェット推進に関わる礎を築き、航空・宇宙開発(推進機構)・軍事(ミサイル防衛)といった分野において、現代に至る発展を牽引した。
これらの偉大な業績に反して、チームの一員であったJack Parsonsについてはどちらかというと異端信仰に傾倒したスキャンダラスな側面が取りざたされることが多い。当時から神秘主義・秘術教として悪名高く、各界で着実にカルト信奉者を増やしていた"Thelema"に入信。グールーであるAleister Crowleyから、カリフォルニア支部である""Agape Lodge"のリーダーに選出。後年に渡って多くの著書を遺す。
Thelemaのパガニストが大きく批判される理由の一つに、ドラッグを介したインモラルな性魔術思想が実践されていることがあり、信者が社会生命を脅かされることも多かった。パーソンズも例外ではなかったのだ。彼が崇拝の対象としていた「牧神パン」については詳しく後述するが、これは他の多くの悪魔教のシンボルにされている牛頭の神である。
ポトマック馬熱は何ですか
Jack Parsonsは信仰に関わる人々との間で、数奇な運命を辿ることになる。後にサイエントロジーの始祖となるL. Ron Hubbardとも、性魔術教にありがちな男女絡みの関係性の中で親交を深めて行く。また彼は、妻とともにボート会社を設立するが、ビジネス上のトラブルからHubbardと対立。一連の出来事で搾取されたマネーが、今にち幅を利かせているオカルト宗教である、サイエントロジーの立ち上げ資金にまわされた。
パーソンズは晩年、クロウリーの「法の書」に基づいて、神を受肉した"ムーン・チャイルド"を宿す為、"緋色の女(聖書における淫婦)"と契約を交わしたというが、1952年、自宅ガレージの実験室にて雷酸第二水銀の化合中に爆発事故を引き起こし死亡する。その死を不可解なものとして神聖視する向きも多い。
ヨハンソンはオカルト信仰者ではないが、先述のフォードの野心にも通じて、圧倒的な情熱と傾倒が導く、神懸かりな求心力というものについて、一定の憧憬を抱いているのかもしれない。しかし、彼の友人はアルバムのテーマを「思い上がった人々の末路」だと一蹴したという。ヨハンソンはそれを「要点を掴んでいる」と評価する。
奇妙な符合だが、その後エアロジェット社は、1940年代にゴム結合剤を用いた固形燃料の共同開発からはじまる、ジェネラル・タイヤ社との協力関係を保ち続けなら、最近は宇宙開発の足がかりとなるホール効果を応用した最先端の電気推進エンジン・システムの開発に成功した。実はここが、後述する未来の宇宙推進システムのテーマに深く関わってくる。
ヨハンソンは『タイヤ』を、現代文明を運行する象徴として捉えているのかもしれない。
余談だが、エアロジェット社創設メンバーであるフランク・マリナは、主に兵器システムにおける実績を残し、ユネスコの関連役職を歴任。後年は現代美術と科学技術の接点について深い興味を示し、主にScience/Art 両分野の化学反応を見据えて"Leonardo Journal"を創刊。死後は「レオナルド/芸術と科学と技術の国際協会 (Leonardo/The International Society for the Arts, Sciences and Technology, ISAST)」が創立され、現在まで活動を続けている。
4. Melodia (II) .
再びクラリネットが寂し気に歌う、ごくごく短い間奏曲。寥々とした環境音のノイズが、いっそう孤独と無常感を募らせて行く。
5. Fordlandia Aerial View .
レイキャビクの教会で一発録りされたというライブ・レコーディング作品。愁然に臥した"Fordlandia"の主題が錆色を帯び、電子加工された罅割れたトレモロが、俯瞰する理想郷が放つ最期の煌めきを物語る。
6. Melodia (III) .
Melodia (II)のフレーズがピアノに取って代わられ、何かの去来を眈々と待つように、壊廃したドローンの暈が視界を覆い始める。ピアノは濁った残響に離散しながら、暗い深淵へと没していく。オーストリアの教会で目にしたSunn O)))のパフォーマンスに着想を得たという。
7. Chimaerica .
レイキャビクのラングホルト教会にて、著名なオルガニストGuðmundur Sigurðssonによって演奏されたパイプ・オルガン作品。バロック期の手法に倣った純器楽風の面持ちだが、徐々に電子的な歪みが楽曲を浸食し始める。
『Chimeraとは、複数の動物が融合した神話上の獣だが、遺伝子工学においては発生系統の異なる細胞からなる一個の有機体を指す。Chimaericaとはつまり、キメラの支配する土地を意味する。』
ここに至って、ヨハンソンの標榜するテーマの統括を見ることが出来る。アメリカという国家が歴史を築きながら孕み続けている気の遠くなるような交雑性。現代文明を支えるテクノロジーや資本主義の形骸に繰り込まれて来た、茫漠とした危うさ。しかし、この作品が最後に示すのはカタストロフィではない。
8. Melodia (IV) .
静かに鳴る機械音に包まれて、Guðni Franzsonによるクラリネットが、今度は目覚めの刻を迎えようとしているかの如く、再び哀感豊かに奏でられる。パイプ・オルガンのペダルによる持続音はノルウェーで収録され、弦楽器のトリルとハーモニクスはプラハで録音された。
9. The Great God Pan is Dead .
ストリングスとホーンが、前曲から引き継いだトリルに導かれ、まるで何かの訪れを告げるように柔和な響きを呼び交わす。ポツポツと降る零雨と川のせせらぎの中、プラハ・フィルハーモニー合唱団によるキリスト教聖歌風の厳かなユニゾンが、全能の神パンの死と、オリュンポスの神々の嘆きと別れを象徴する。
環境音のフィールド・レコーディング素材は、スウェーデンにおいて支持を集めている実験音響作曲家、BJ Nilsenによって提供されたもの。
(Elizabeth Barrett Browning [1806-1861])
冒頭に引用したイングランドの詩人、エリザベス・ブラウニングの『死せるパン』は、神秘主義者にとっては、クロウリィーが自著で引用する『パン賛歌』と並び評されるパガニズムの詩と思われがちだが、それは単に彼女の幽玄な詩的センスの発露の賜物である。
『偉大なるパーンは死せり』
この文句は帝政期ローマのギリシャ人歴史家プルタルコス以来、「古代の没落」を示す表現として2000年以上に渡って親しまれて来た。ニーチェの句「神は死んだ。」も、このセリフに由来している。同様のテーマは、古代から近現代の創作・美術・音楽分野において枚挙の暇がないほど引用されており、しばしば「パン」は自由と救済を齎す創造主、あるいは畏れ多き背徳の象徴として表現されている。
(1904年ミロス島で出土したアフロディテとパン、キューピッド像)
山羊の形相をしたパン(Παν)は元々、どちらかというとサテュロスなど共に下位に属する神であったが、その単語が『全て』を意味する他の『パン』と混同され口承されていくうちに、いつしか「全ての神」と意味を換え、ストア学派によって正式に「全宇宙の神」として、ゼウスに次ぐ存在と位置付けられてしまう。
しかし、キリスト教の確立にともない、ギリシャの多神教的世界観に折り合いをつけて収束させようとするという思惑が働いた。その節目の出来事として伝承されるのが、ティベリウスの時代に船乗りが耳にしたという「Palodesに着き次第、偉大なるパーンは死んだと伝えるのだ」という神託である。この時、無数の精霊を宿したギリシアの自然は悲嘆に暮れ、他の神々は闇の世界へと去っていったという。
(Franz von Stuck / "Pan" 1908)
以降、中世期に権威が肥大化したキリスト教圏においては、獣の容姿をしたパンは男性の性的なシンボルとも直結され、不浄で粗野な悪魔=サタンの原型として扱われるようになるが、ルネサンスを経て19-20世紀初頭にかけて、人間としての悦びを謳歌する象徴としての「牧神パン」が創作の題材として好まれるようになり、現在に至る。その捉え方は、無数ある「パン」の体系により様々である。
Jack ParsonsとElizabeth Browningが見た『パン』は、きっとそれぞれに異なる存在であったに違いない。ヨハンソンにとってはどうであろうか。
『19世紀のブラウニングの詩を歌詞にした。森の神・パンへの哀歌だ。ここではペイガニズムの死を示した。やがて一神教が支配し、資本主義が台頭する。フォードに代表される大量生産時代の幕開けだ。』
10. Melodia (Guidelines for a Space Propulsion Device based on Heim's Quantum Theory).
(Short Edit/Video by Magnús Helgason)
"Fordlandia"の総体を運行するダイナミクスであり、断片的な音楽的機軸として働いてきた"Melodia"の主題が、ここで完成される。パイプ・オルガンとストリングスのフーガ形式で構築される楽曲だが、ドープなプログラミング・ビートと環境音のノイズ・サンプリング、そしてギターのディストーションが一層共鳴を重ね、楽曲をループ状のクレッシェンドに引き上げていく。
凡そ3年前、New Scientist誌に掲載された恒星間飛行に関する論文が、物理コミュニティを騒然とさせたことがあった。ドイツの物理学者Jochem Häuserと同僚のオーストリア人Walter Dröscherによって提出された"Guidelines for a Space Propulsion Device based on Heim's Quantum Theory(ハイムの量子理論に基づく宇宙推進装置のガイドライン)"である。
>> (本文)
>> http://www.heim-theory.com/ (基本公式・理論)
通覧したところ、概して平行宇宙を介したハイパースペース航法の可能性を示した文献で、その基礎科学はドイツの理論物理学者、Burkhard Heim (1925-2001)の斬新な仮説に拠るものである。
Burkhard Heimによれば、この理論上のエンジンは"Gravitophoton"なる粒子の2重作用により莫大な電磁場を形成、"光速がより速く進む異次元"を重力場の作用で推進力を得ながら航行するという。一見、基礎科学を度外視した途方も無い仮説のように思えたが、両名の発表者の明かした所に拠ると、米空軍が実験に前向きな興味を示しているとして、事態は仄かに信憑性を帯び始めた。
然し乍ら、論文の骨組みを裏付けるには、あまりにも未証明や仮説事項が多く、現代の物理解釈のパラダイム・シフトを要する。道のりは遠い。Heim Theory(主に"統一場の幾何学的量子論")も、どちらかというとUFO研究といったオカルト分野で引き合いに出されることの多い概念である。
Jóhannssonが実際に論文に目を通したかどうかは定かではないが、その異端とも言える学説と哲学的知見に根ざした画期的なアイデアは、ある種のカルト的な支持を得ている。Heimもまた、強い意志で知的地平線を切り開こうとした不屈の人である。
Burkhard Heimは大戦中からドイツ軍の爆薬研究に従事していたが、19歳の時の事故により、両手と視力の殆どを失ってしまう。しかし後年、ゲッティンゲンの大学で物理を専攻、同時に医学と心理学、電気工学のみならず、歴史と神学を学ぶ。そして1952年、国際宇宙連盟の会議において、宇宙推進システムについての初の講演を行う。IAFの認めるところとなった彼の才能は、その後も重力制御推進の研究などにおいて一定の貢献を果たす。
ハイムは一般相対性理論と量子論を等価にしようと試みる統一場理論研究に腐心し、1956年に提出された27ページのレポートでは、上述のハイム理論に基づく効率的な推進システムの概念が既に示されていた。それはわずか285kgの燃料で、火星までの航行時間を336時間以内に留めるという画期的なものであった。
(Difference and summation operators: ハイムは異なる演算子を多用する)
以降40年間に渡って、彼は孤立しながら自説の理論証明の時を待つが、時代はハイム理論を受容しなかった。しかし今、その先駆的で目新しい発想は、理論物理が陥っている閉塞感へのブレイクスルーとして脚光を浴び始めている。
11. How We Left Fordlandia .
『そう、ここに再帰しよう。このアルバム全体を縫い通す一本の糸は、人類の生産物は何れ自然に帰してしまうという観念だ。ジャングルの木々が、あのフォードランディアを悠々と覆い隠して行くように。もう一つは、パーソンズとヘイムの遺業、神秘主義とロケット工学との邂逅であり、それは全宇宙を統べる"原初の神"パン ・・・異教の顕現とされた森の神のイメージとなる。私にとって、この作品は大きく二分されたストーリーラインからなるフィルムのようなものだ。それらは一見して何ら関わりを持たない。その詩的センスという因子以外には。』
人類史の進歩の原動力を支えて来たのは、人それぞれが抱きうる絶ゆまない夢想と情熱に違いない。そうして今、テクノロジーという歯車に呪いを噛んで軋んでいる。
最終楽章の"How we left fordlandia"では、アルバム中で最も心を揺さぶるエモーショナルな試みが為されている。草露となった理想郷、虚構に囚われた男の代え難い偉績、豊穣を極め疲憊する資本主義、かつて自由を謳歌した神々...人類の可能性を委ねられた大いなる空想。この"幻滅の悲哀"に一期の煌めきを託して、時の彼方に消えた麗しき夢境を讃える気宇壮大なリチェルカーレ(探求)を奏でる。
咽び泣くようなコーラスの導入からパイプ・オルガン、そして儚いトリルからストリングスが追奏を重ねる。中盤のアラルガンドをピークに、いつ果てるとも知れないオスティナートの静謐な軌道に捕らわれる。夢の跡を残して何処までも遠ざかるように、響きは何時しか暗い闇の遥遠へと霞んでいく。この地上を去るのは我々か、それとも...
□ Jóhann Jóhannsson / "IBM 1401, A User's Manual"
>> http://www.ausersmanual.com/ (full story)
Release Date; 10/2006
Label; 4AD
Cat.No.; CAD 2609
Format: 1xCD
>> tracklisting.
01. Part 1 - IBM 1401 Processing Unit
02. Part 2 - IBM 1403 Printer
03. Part 3 - IBM 1402 Card Read-Punch
04. Part 4 - IBM 729 II Magnetic Tape Unit
05. Part 5 - The Sun's Gone Dim and the Sky's Turned Black
("IBM 1401 Processing Unit" Video by Magnús Helgason)
Jóhann Jóhannssonが『技術史』をテーマに扱うという三部作の第一作目"IBM 1401 - A User's Manual"は、最も実験的かつコンセプチュアルな作品で、1960年代の世界中の技術/ビジネス成長を支えたこのコンピュータへのレクイエムとして捧げられたもの。
ヨハンソンの父親であるJóhann Gunnarssonが30年以上前に録音していたメインフレームの稼働音にインスパイアされたものであり、当初はクァルテットと舞踊の為の作品として書かれていた。アルバム化にあたり、ヨハンソンは60名のオーケストラを起用し、実際にIBM 1401の駆動音が用いられ、エレクロニカ・アレンジを施した。こうして"Fordlandia"に通じるコンセプトを確立する。
何より素晴しいのがシュールでありながら美麗なジャケット・アート。デジパックの内側にはIBMの仕様書を模した小さなスリーブが貼付けられています。
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